ミクロ経済学基礎

1.4 経済はどのように整理できるか:経済システムの概要

この節の最後には、以下のことができるようになります。

現代の経済がいかに複雑かを考えてみてください。それは、すべての財やサービスという製品、また、すべての売買、雇用を含んでいます。すべての個人の経済活動は、少なくともある程度は、何千、何百万のほかの個人と相互に関係しています。誰が、このシステムを組織し、調製しているのでしょう?例えば、誰が、社会が供給するテレビの数が、それを欲しがっている需要の量と同じだということを保証しているでしょうか?誰が、電気産業で働く従業員の適切な人数を保証しているでしょうか?誰が、テレビはできる限りの最善の方法で製造されることを保証しているのでしょうか?どのようにそれらはなされてきたのでしょうか?

社会が経済を組織する方法は少なくとも三つあります。まず第一に、伝統経済です。これは、最も古い経済システムで、アジア・アフリカ・南アメリカのところどころで使われていました。伝統経済は、それまで行われていた方法(言い換えれば、伝統)で経済活動を組織します。雇用は家族の中で完結し、ほとんどの家族が、伝統的方法で穀物を育てる農家です。また生み出したものは、自ら消費します。伝統が生き方を決めるので、経済的な進歩や発展はほとんどありません。

エジプトのピラミッドの前でラクダに乗る人々の写真

図 1.7 計画経済古代エジプトは計画経済の一つの例です。(Credit: Jay Bergesen/Flickr Creative Commons)

一方計画経済は伝統経済とはかなり異なります。計画経済では人々の経済的な努力は、支配者や支配階級から与えられた課題に沿ったものとなります。古代エジプトはその良い例です。人々は経済活動の大部分をファラオのためのピラミッド(図1.7)造りに専念していました。別の例として中世の荘園での暮らしがあります。封建領主は作物を育てるための土地を提供し、戦争の際の保護を保証しました。その見返りに家臣は労働力を提供し、領主の命令を実行する兵士となりました。20世紀には共産主義が計画経済に重きを置いていました。

計画経済では、どんな財やサービスが作られ、それにどのような値段をつけるかは政府が決定します。また政府は効果的な製造方法や労働者の賃金決定を決定します。政府は医療や教育といった多くの生活必需財を無料で提供します。現在ではキューバや北朝鮮が計画経済を行っています。

エジプトのピラミッドの前でラクダに乗る人々の写真

図 1.8 市場経済市場といえばニューヨーク証券取引所です。(Credit: Erik Drost/Flickr Creative Commons)

計画経済は経済的な意思決定において非常に集約的な構造であるのに対し、市場経済は非常に分散された構造です。市場は各個人や各企業の売り手と買い手の財やサービスを集める機関です。ニューヨーク証券取引所(図1.8)は売り手と買い手を引き合わせる市場の主たる例です。市場経済において意思決定は分散されています。市場経済は民間企業に基づいています。民間企業とは、私人や私人のグループが所有し、資源や事業といった生産手段を所有、運営する企業のことです。。民間事業は需要に基づいて財とサービスを提供します。(対して、計画経済では政府が資源や事業を保有しています。)財やサービスを提供することは需要に依拠しています。人々の所得は、資源(特に労働)を社会的価値のあるものに変換するそれぞれの能力に基づいています。社会が、その人が生産したものに対してより大きな価値を見出すほど、その人の所得は高くなります(Lady GagaやLeBron Jamesを考えてみてください)。この場合、経済的な意思決定は政府ではなく市場によって決まります。

実世界のほとんどの経済は混合型です。計画経済と市場経済(ときには伝統経済まで)の要素を組み合わせています。アメリカ経済は市場経済寄りといえます。ヨーロッパとラテンアメリカの多くの国は市場志向型であるけれど、アメリカ経済よりも経済の決定に対し政府の介入が大きいです。中国とロシアは過去幾十年の間に、市場志向型システムへ移行してきていますが、計画経済に近い側面を残しています。Heritage Foundationは各国の特徴を検討し明らかにすることにより、各国がどれほど自由、つまり市場に経済を委ねているかの情報を提供しています。同じようなランキングで、自由をより広い定義で扱っているものとしてCato Foundation’s Human Freedom Indexを見てみるといいかもしれません。

どの国が経済的に自由と考えられているのでしょうか

誰が経済的な決定をコントロールしているのでしょう。人々は自由にしたいことをして自由に働きたい場所で働けるでしょうか。事業体は生産したいものを生産したいときに生産できるでしょうか。そして思うがままに雇用したり、解雇したりできるでしょうか。銀行は自由に金銭貸借者を選べるでしょうか。それともそのような決定は政府がしているのでしょうか。各年、Heritage FoundationとWall Street Journalの研究者が世界中の国家の50の異なったカテゴリーにおける経済的自由度を検査しています。各国家の各カテゴリーの経済的自由度は拡大基調にあります。

2016年のHeritage Foundationの経済自由度指数に関する報告書では世界中の178つの国をランク付けしました。表1.1はその一部を示しています。いくつかの国は経済が極端に不安定であっため経済自由度指数に関する判断が不可能とされランク付けされていません。ランク付けされなかった国として、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、ソマリアとイエメンがあります。

ランク付けは必然的に推計によるものとなりますが、これらの大まかな指標はトレンドを理解するのに役立ちます。2015年に、ランキングに含まれる178つの国のうち101つの国でより経済自由度が増したが、一方で77つの国では経済自由度が減少した。ここ数十年のトレンドとして、世界的に経済自由度が増す傾向にあります。

経済自由度が高い国 経済自由度が低い国
1. 香港 167. 東ティモール民主共和国
2. シンガポール共和国 168. コンゴ民主共和国
3. ニュージーランド 169. アルゼンチン共和国
4. スイス連邦 170. 赤道ギニア共和国
5. オーストラリア連邦 171. イラン・イスラム共和国
6. カナダ 172. コンゴ共和国
7. チリ共和国 173. エリトリア国
8. アイルランド 174. トルクメニスタン
9. エストニア共和国 175. ジンバブエ共和国
10. 英国 176. ベネズエラ
11. アメリカ合衆国 177. キューバ共和国
12. デンマーク王国 178. 北朝鮮

規制:ゲームのルール

市場と政府の規制は常に関係しあっています。完全に自由な市場というのは存在しません。規制は経済の中でのルールを決めます。市場経済志向の経済では、規制の数は多くありません。参加者が公平に活動できるような最小限の規制が市場経済志向の経済では理想的です。少なくとも、泥棒から私有財産を守ることや、暴力から人を守ること、法律上の契約を結ぶこと、詐欺を防ぐこと、税を徴収することなどの事柄は法によって管理されます。逆に、どんなに計画経済志向の経済でも市場を用います。そうでなければ売買はどのようにして起こるでしょうか?政府の強い規制によって生産と価格が決定されます。政府によって厳しく規制された経済では時より買い手と売り手の取引が政府の承認を得ていない地下経済(闇市場、ブラックマーケット)が存在します。

どのような経済制度をとるかという問題は通常、全てを市場に任せる、または全てを政府に任せるといった白黒つけられる選択ではなく、市場の自由と政府の規制の適切な組み合わせによりどのようにバランスを取るかが関わってきます。

貨物船がの写真

図 1.9 グローバリゼーション市貨物船は世界経済において、船積商品輸送を行うための一つの方法ですした。(Credit: Raul Valdez/Flickr Creative Commons)

グローバリゼーションの高まり

ここ数十年間、グローバリゼーションに向かう趨勢が見られます。グローバリゼーションとは世界中の人々の文化的、政治的、経済的なつながりが広がることを言います。この一つの指標は、国境を超えた財、サービス、そして資産の売買の増加、言い換えれば、国際貿易と金融資本フローの増加です。

グローバリゼーションはいくつもの理由により引き起こされました。コンテナ船(図1.9)や、航空貨物のような、輸送技術の発達は輸送コストを下げてきました。コンピュータや遠距離通信技術の革新によって、生産と売買の長距離の経済的なつながりを管理することがより簡単でより安く行えるようになりました。現代経済において多くの価値ある商品やサービスは情報の形態をとりえます。例えば、コンピュータ・ソフトウェア、財政的なアドバイス、旅行の計画、音楽、本や映画、そして、建物の詳細な設計図などです。これらの商品やその他多くのものは、電話やコンピュータを介して、これまで以上に低いコストで輸送されることが可能になりました。そしてに、国際的な合意と複数国間での条約はさらに大きな貿易を促してきました。

表1.2はグローバリゼーションの一つの尺度を紹介しています。この表は世界銀行の統計による、いくつかの国の2010年から2015年までの国内総生産における輸出のパーセンテージを示しています。輸出は国内で生産された財・サービスが海外で販売されることを指し、輸入は海外で生産された財・サービスが国内で販売されることを指します。国内総生産(GDP)は経済における(国内の)総生産の規模を測ります。すなわち、輸出をGDPで割った割合は、ある国の経済的総生産のうちどれほどが他国で販売されたかを測るものなのです。

2010 2011 2012 2013 2014 2015
高所得国
アメリカ合衆国 12.4 13.6 13.6 13.5 13.5 12.6
ベルギー王国 76.2 81.4 82.2 82.8 84.0 84.4
カナダ 29.1 30.7 30.0 30.1 31.7 31.5
フランス共和国 26.0 27.8 28.1 28.3 29.0 30.0
中所得国
ブラジル連邦共和国 10.9 11.9 12.6 12.6 11.2 13.0
メキシコ合衆国 29.9 31.2 32.6 31.7 32.3 35.3
大韓民国 49.4 55.7 56.3 53.9 50.3 45.9
低所得国
チャド共和国 36.8 38.9 36.9 32.2 34.2 29.8
中華人民共和国 29.4 28.5 27.3 26.4 23.9 22.4
インド 22.0 23.9 24.0 24.8 22.9 -
ナイジェリア連邦共和国 25.3 31.3 31.4 18.0 18.4 -

表 1.2 グローバリゼーションの度合い (輸出額/GDP) (出典: http://databank.worldbank.org/data/)

この数十年間で、世界全体とアメリカ経済の輸出/GDPの割合は一般的に上がっています。興味深いことに、アメリカの経済と比例した輸出割合は世界平均と比べとても低いのです。その理由の一つとして、アメリカのような経済大国では国内でより多くの分業を行うことが可能ですが、ベルギーや韓国、カナダなどのより小さな経済規模の国では分業の優位性、特化、規模の経済を最大化するために他国と国境を越えた貿易をする必要があるからです。この意味で、巨大なアメリカ経済は他国よりもグローバリゼーションによる影響が少ないと言えます。

表1.2が示すように、メキシコや中国のような世界の中で収入が中から低程度の多くの国も、この数十年間で自由化を経験しました。もしも軌道上の宇宙飛行士が、全ての経済的な取引を鮮やかな色のついた線として見る事のできる特殊なメガネをかけ、地球を見下ろしたとすると、宇宙飛行士は、地球が色のついた線で覆われていることを見て取れるだろう。

直近の数十年の間に自由化が進んだにもかかわらず、仕事、政治的統治権の喪失及び増加傾向にある経済的格差の拡大に不安を持つ世界中の人々によって自由化に対する抵抗がこの数年間において見られました。この抵抗の顕著な例としては、EU(European Union)脱退を巡って2016年に行われたイギリスにおける投票や、アメリカ合衆国大統領にDonald J. Trump氏が選ばれたことが挙げられます。

経済学がどのような学問であるかイメージがついたでしょうか。他の章を読む前に、「経済における数学の使用」というタイトルのこのチャプターにおける非常に重要な補論に目を通しておきましょう。経済学におけるモデルをどのように読み解き、使うのかをさらに知っておくことが肝要です。

身の回りの経済学

判断... ソーシャルメディアの時代の判断

私たちが現在暮らしている現代社会は、瞬時に豊富な情報へのアクセスが可能となっています。1970年代後半までは、農家が作物を植える時期、収穫する時期を判断するための主要な情報源はFarmer's Almanac(農家の手引書)と、アメリカ合衆国農務省の気象部門でした。今日では、農家はオンラインでアメリカ海洋大気庁が発表する天気予報やテレビで天気予報を見ることが主流でしょう。天気予報を知ることはいつ作物を収穫するかを左右します。結果として、天気予報を知ることが収穫される作物の量までをも変えるかもしれません。

Facebookといった新しい情報フォーラムは、情報がどのように人々に行きわたるかを変えており、結果として人々の判断に影響を与えています。2014年にPew Research Centerは大人の71%がFacebookを使っていると報告しています。FacebookなどのソーシャルメディアフォーラムではNBA、歌手、パフォーマー、農家など幅広いトピックについて取り上げられています。

明日着る服から、交通事故の報道のために何人現場に向かわせるかということまで、情報は判断することの手助けとなります。これら一つ一つは経済的な判断です。結局のところ資源は希少です。もしメディアが交通事故の報道のために10人派遣してしまったら、他のニュースを報道したり他の仕事を終わらせることができなくなります。情報は、希少な資源をいかに活用するかの最善の判断をするための知識を提供してくれます。経済学の世界へようこそ!

批判的思考のための問題

  1. 現代の多くの国の経済が計画経済と市場経済の混合型であるのはなぜでしょうか。
  2. グローバリゼーションがあなたにとって経済的な利益となった例はあるでしょうか。また経済的な不利益となった例はあるでしょうか。

対訳表

伝統経済 traditional economy
計画経済 command economy
市場 market
市場経済 market economy
私企業、民間企業 private enterprise
地下経済、アングラ経済 underground economies
グローバリゼーション globalization
輸出 exports
輸入 imports
国内総生産 Gross domestic product (GDP)

第1章について »