ミクロ経済学基礎

1.2 ミクロ経済学とマクロ経済学

この節の最後には、以下のことができるようになります。

経済学は、仕事のある人とない人、高収入の人と低収入の人、全ての人々の幸福に関わっています。経済学は、便利な製品やサービスの生産が環境汚染の問題を生み出す可能性があることを認めています。経済学は、教育への投資がいかにして労働者のスキルアップを助けるのかという問いについて分析しています。経済学は大きなビジネスや労働組合がいつ社会全体に利益をもたらし、いつ他人の出費犠牲によって彼ら自分たちの雇用者やメンバーに利益をもたらすのかという問いを探り証明しています。経済学は政府の支出、税、および規制が生産と消費に関する決定にどのように影響を及ぼすのかを調べます。

ここまでで、経済学はかなり多くの分野をカバーしていることが明らかになったはずです。私たちはこれらのその分野を、ミクロ経済学マクロ経済学という2つのパートに分けることができます。ミクロ経済学では、経済における世帯や労働者、企業などの個々の活動に焦点を当てます。マクロ経済学では、経済全体を見て、生産の発展や失業者の数、インフレーションによる価格上昇、政府の赤字や、輸出入のレベルなど、広い問題に注目します。ミクロ経済学とマクロ経済学は完全に分かれているものではなく、経済全体を観察するための相補的な2つの視点であるといえます。

ミクロ経済学とマクロ経済学の両方の観点がなぜ役に立つかを理解するために、湖のような自然生態系を調査する際の問題を例に考えてみましょう。湖についての研究に着手したある人は、ある種の藻類や植物の生活環、特定の魚やカタツムリの特性、あるいは湖を取り囲む木々といった特定のトピックスに焦点を当てるというアプローチをとるかもしれません。一方、ある人は生態系の上から下までを俯瞰したアプローチをとるかもしれません。例えば、何が何を食べるか、システムがどのようにしてある程度のバランスを保つか、どのような環境ストレスがこのバランスに影響を与えるかといったことです。どちらのアプローチも有用で、いずれも同じ湖を観察していますが視点が異なります。同様に、ミクロ経済学もマクロ経済学も同じ経済を見ていますが、それぞれ異なる視点から見ています。

湖であれ経済学であれ、何かを調べるとき、ミクロな視点とマクロな視点は互いに重なります。湖を再度例にとると、特定の動植物に関するミクロな知見は食物連鎖全体を理解することにつながります。一方食物連鎖についてのマクロな知見は特定の動植物が生息する環境を説明することにつながります。

経済学では、各企業におけるミクロな判断はマクロ経済が健全であるかによって影響を受けます。例えば、経済全体が成長していれば企業は雇用を増やす傾向を示すでしょう。逆に、マクロ経済の動向は最終的に各家庭や企業が行うミクロな判断によって決定されます。

ミクロ経済学

世帯や個人がどのように予算を使うかは何によって決定されるのでしょうか。使うことが可能な予算の中で、どのような財やサービスの組み合わせが最も彼らのニーズと欲求を満たすのでしょうか。人は、働くかどうか、もし働くならば、フルタイムかパートタイムかをどうやって決定しているのでしょうか。また、将来のためにいくら貯金するか、あるいは現在の収入を超えて支払うためにお金を借りるべきかどうかをどうやって決定しているのでしょうか。

会社がどのような商品をいくつ生産して販売するかは何によって決定されるのでしょうか。会社が請求する価格は何によって決定されるのでしょうか。会社が製品をどのように生産するかは何によって決定されるのでしょうか。会社が何人の労働者を雇うかは何によって決定されるのでしょうか。会社はどのように事業の資金を調達するのでしょうか。会社は、事業を拡大、縮小する、あるいはたたむかをいつ決定するのでしょうか。本書のミクロ経済学のパートでは、消費者行動の理論、企業の理論、労働や他の資源の市場がどのように働くのか、そして、どのようにときにして市場が失敗するかについて学びます。

マクロ経済学

社会の中で経済活動の程度を決定するのは何でしょう。言い換えれば、一国がどれくらいの財やサービスを生産するかを決定するのは何でしょう。どのくらい求人が存在するかを決めるのは何でしょう。一国の生活水準を決めるのは何でしょう。経済を促進または停滞させるものは何でしょう。何が企業でより多くの労働者を雇わせたり、解雇させたりするのでしょう。最後に、経済が長期的に成長する要因は何なのでしょうか。

いくつかの目標、例えば主要なもの挙げると、生活水準の上昇、非雇用率の低下、インフレーション率の低下などを測定することでマクロ経済の状態を判断できます。政府のマクロ経済政策によってこれらの目標を達成するするためにはどうすればいいでしょうか。国の中央銀行は銀行貸出や金利、金融資本市場に影響を与える金融政策を実行します。アメリカの場合、中央銀行はFederal Reserveです。国の立法機関は、政府の支出や税を含めた財政政策を決定します。アメリカの場合、これを担うのは予算を策定している連邦議会と行政部です。アメリカ人は政府がどんな経済問題でも解決できると推測しがちですが、その推測はどこまで正しいのでしょうか。これらの課題は、この教科書のマクロ経済学のパートで見るもののごく一部です。

批判的思考のための問題

  1. 生活水準などの成長がマクロ経済学の第1の目的で、バランスの取れた国家予算と貿易収支がその次に来ます。なぜでしょうか。
  2. マクロ経済はミクロ経済で起こることを総合したものです。経済主体のミクロレベルでの刺激に対する反応が、マクロレベルで起こることと異なることはあり得るでしょうか。ヒント: 大衆の動きを考えてみましょう。

対訳表

ミクロ経済学 microeconomics
マクロ経済学 macroeconomics
金融政策 monetary policy
財政政策 fiscal policy

1.3 経済学者がどのように仮説やモデルを使って経済学的な課題を理解するのか »