ミクロ経済学基礎

第2章 希少性の世界での選択

高等学校の卒業式の様子を写した写真

図 2.1 選択とトレードオフ一般的に、学位が高いほど給料も高いと言われています。では、なぜ人々はより高い学位を追求しないのでしょうか?簡単な答えは、選択とトレードオフです。(Credit: modification of work by “Jim, the Photographer”/Flickr Creative Commons)

身の回りの経済学

選択...どの程度まで?

2015年、修士号を持っている労働者の収入の中央値は女性と男性で異なります。男女合わせた平均は、週に2,951ドルです。この平均値に52週間を掛けたら、153,452ドルの平均賃金の数値を得ることができます。一方でフルタイムで働く学士以下の25歳以上の従業員の平均週間収入は週に1,224ドル、つまり1年あたり63,648ドルです。2015年の高卒以下の人たちの収入はどうでしょうか?彼らは、週にたった664ドル、12か月働いて34,528ドルしか稼げません。アメリカの労働省労働統計局(BLS)は、学士号を取得することは、高校卒業後、教育を受けることをやめた場合に稼げるであろう給料の額を54%上昇させると主張します。修士号を獲得した人は高卒の人より、ほぼ2倍の給料を稼ぎます。

このような統計が与えられると私たちは、多くの人は大学に行くことを選択し、最低でも学士号を取得すると予測するかもしれません。人々は自らの物質的な幸福を向上させたいものであると仮定すると、良い財とサービスを消費する機会を人々に提供する、先に述べた学士号を取得するという選択をするように見えます。しかし分析を行うと、現実はこの仮説ほど単純でないことが判明します。実際に2014年にBLSは、アメリカの人口の約88%が高校卒業証書を得ていますが、25から65歳の人々の内たった33.6%が学士号を取得しており、25から65歳の人々の内たった7.4%が博士号を取得しているということを報告しました。

BLSによるこの報告は、人々はどのように選択をするのか、そして経済学者はそのような選択をどのように予測するのかというこの章の主題へとつながります。

はじめに

この章では以下の内容を学びます:

経済学と希少性の関係性を観察すると、選択にはトレードオフがかかわっていることがすぐわかるでしょう。すべての選択には犠牲がついてきます。

イギリスの経済学者Lionel Robbins (1898–1984)は1932年のEssay on the Nature and Significance of Economic Scienceの自身のエッセーにて、いつも自分の欲しいものが手に入るとは限らないことを以下のように述べていました。

「我々が自由に使える時間には限りがあります。一日は24時間しかありません。我々は時間を何に使うかを選ぶ必要があります。…どんな状況においても、一つのことを選ぶと、手放したくなかった他の物を手放さなければなりません。最終的な目的を果たすための手段が希少であることは、人間にとってはもはや当たり前の状態です。」

人間は希少性の世界の中で生きているため、すべての時間、お金や財産、経験を手に入れることはできません。社会も同様に、すべてを手に入れることはできません。

この章では希少性や経済学的思考の議論を続けていきます。そのためにまず初めに機会費用、限界原理、収穫逓減という3つの重要な概念を紹介します。その後、経済的思考が、我々がどのように選択を行うか、またどのように選択を行うべきかを正確に説明できるかを考えていきます。

2.1 予算制約に基づく個々人の判断 »