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1 プロローグ:関心の独占

2018年3月、政治コンサルティング会社のCambridge AnalyticaとFacebookとのスキャンダルが発覚した際、ロンドンのThe Guardian紙はCambridge Analyticaの元役員の言葉を引用した:

Google、Facebook、Amazonといった大企業はすべて、人のデータをマネタイズすることで、何百億ドルあるいは何千億ドルと稼いでいる…。私は何年も前から企業や政府に、データこそがおそらく個人の最も貴重な資産であるということを伝えてきた。 個人は自分自身のデータをマネタイズできるべきであり、そしてそれは各自が所有する価値であり、搾取されるべきものではない。

他のコメンテーターたちもこの考えに賛同した。これらのインターネット大企業の問題は私たちのパーソナル・データの掌握にあるのだと。 しかし、この考え方は根本的に間違っている。そして医療と同様に、誤った診断は大きな問題だ。

GoogleとFacebookが搾取しているのはあなたのデータではなく、あなたの関心だ。 彼らは、スクリーンに貼り付けになっているあなたの目のおかげでお金を稼いでいる。私たちが何かを調べたいときや友人と連絡をとって近況を知りたいとき、私たち何十億人もがこれらのサイトを訪れる。そしてこの圧倒的な支配力が非常に強力なのだ。

これらの企業が私たちのパーソナル・データを利用してターゲット広告を行っていて、それがビジネスモデルの一部であることは有名な話だ。しかしこれらの企業が仮に私たちについてのデータにアクセスできなかったとしても、利用者の規模だけで巨額の収益を得続けるだろう。ターゲット広告が発明される以前にテレビ局が巨大な富を得ていたように。

重要なのは、ユーザーの関心の独占だ。 したがって、これらの企業が引き起こしている本当の問題を見極めるためには、これらの企業がいかに独占する立場になり得たかを知る必要がある。その答えは、これらの企業は以下の3つの事象が重なるところで機能していることにある。

  1. 「プラットフォーム」効果
  2. コストのかからないデジタルコピー
  3. 「知的財産」の権利

これら3つとそれらの相互作用を理解して初めて、この問題の的確な診断と治療を行うことができるのだ。

Twitter、eBay、Google、Facebookやその他の企業は、経済の専門家が「プラットフォーム」と呼ぶものとして機能し、様々な人々がつながる場所として機能する。これは太古からある現象だ。例えば町の広場にある魚市場も、売り手と買い手が集まるプラットフォームといえる。Amazonでは、魚だけではなくより幅広い商品で同じことをしている。 Facebookもプラットフォームだ。もともとはユーザー同士をつなげ、コンテンツを交換するために設計されたプラットフォームだったが、やがて広告主もユーザーとのつながりを望むようになり、広告主を引き寄せる存在として進化していった。 Googleは(これまで新聞がやっていたように)、ユーザーをコンテンツの提供者や広告主と結びつけるプラットフォームだ。

すべてのプラットフォームビジネスは、単一の勝者に集中するという強い傾向がある。これは、より多くの顧客がいるほどより多くの供給者が引き付けられるためであり、その逆も同様だ。例えば、誰もが欲しいものを探しに来る場所となるようにeBayができるだけ大きなものであることを買い手と売り手の双方が強く望む。そしてこの相乗効果は、企業の意図的な戦略、あるいは単にプラットフォーム自体のロジックによって、競争相手が排除されることを意味する。新規参入者は同等の条件で競争することができず、初期の小さな利点が強固な独占を作り上げる。市場は単一または少数のプラットフォームに収束する。これは何世紀にもわたって魚市場や株式交換で行われてきたことであり、現在はGoogleやFacebook、そしてMicrosoft、Uber、Airbnbでも同様のことが起きている。

魚市場や株式取引所の所有者は多くの収入を得ることができる。 一方で巨大なオンライン・プラットフォームの所有者は、魚市場や株式取引所の所有者とはやや異なる部類にあるといえる。それは、コストのかからないコピーが無限に可能となったからであり、これはデジタル時代の重要な特徴の一つである。 この単純な事実から生じる並外れた結果をひと目見ることで現代の世界の理解が始まる。

ソフトウェア、統計情報、交響曲に関わらずそれがデジタル情報であれば、その情報が1つ手元にあれば、ボタンを押すだけで効率よく、コストを掛けることなく無数のコピーを作成できる。これは過去には無かったことだ。材料を購入し続けたり、新しい店舗を開いたりする必要がないため新しいコピーを作成するために必要な費用もない。拡張は無料で、規模の経済性は無限大だ。だからこそ、Microsoft、Facebook、Googleなどは、かつてない速度でサービスを拡大することができ、これまでにないほどの利益を上げてきたのだ。

しかし本当に無制限であれば、コストの掛からないコピーはそれほど儲かるものではない。例えば、もしMicrosoft Windowsを受け取った誰もが好きなだけコピーを作成・共有できたならば、Windowsの収入は少なくなるだろう。あるいはGoogleやFacebookを動かすアルゴリズムが誰にでも利用・変更できたならば、他の企業も簡単に競争ができてしまうだろう。これらのビジネスが強力な独占企業であるための要因は、コピーを作る権利の独占なのだ。彼らは、特許及び著作権という「知的財産」のおかげで、自社のビジネスの中核にあるデジタル情報、すなわち製品とプラットフォームを動かすソフトウェアとアルゴリズムを独占的に管理することが可能なのだ。

MicrosoftのWindowsは、世界の大半で使用されているオペレーティングシステム(OS)のプラットフォームだ。業界標準として、長期にわたり独占的だった。しかしこの過去最大の荒稼ぎは、他の人がMicrosoftのソフトウェアを販売するのを妨げる特許と著作権が存在したからこそ実現した。ソフトウェアとプロトコルを構成するビットはコスト無しにコピーすることができるが、各顧客はそのコピーを得るために数十ドル、数百ドルを支払う。オペレーティングシステムはデジタル世界に関わるためのほぼ必須の条件だ。こうしてMicrosoftは私たち一人ひとりから、コンピューターの利用とインターネットへの接続のための料金を効果的に得ている。

企業にこのような独占的な権利を与えるのが「知的財産」の枠組みだ。しかしながら、この独占は自然発生したわけではない。これは私たちの社会が創り出した著作権と特許の結果だ。もちろん、知的財産の独占が存在することには理由がある。後続のコピーが安価だとしても、映画、アプリ、薬などを新たに作り出すには高額の費用が掛かる場合がある。知的財産はこの最初の産物に対してお金を支払う方法のひとつだ。しかし後述するように、イノベーションに資金を提供する別のやり方、特許と著作権を報酬権に置き換え、独占を生み出すことなくイノベーションのためのインセンティブを維持する方法が存在する。

知的財産権という古いルールに基づいて情報経済が運営されてきた結果、不平等が引き起こされている。 2016年には、世界で最も裕福な8人が下位の人口の50%、つまり35億人の人々と同じくらい多くの金額を持っていた。そしてその8人のうち、6人はテクノロジー関連の億万長者だ。これは政治的な時限爆弾だ。私たちはこの持続不可能な富と権力の集中の真の原因、すなわちデジタル情報の独占的所有、プラットフォーム効果、コストの掛からないコピー、を理解する必要がある。

私たちは、成長が妨げられたこと、そして機会が失われたことによるコストに気づかなければならない。独占者は自分の立場を脅かすいかなる競争をも恐れ、潜在的な競争相手を破壊したり搾取することによって無力化しようとする。Facebookが2014年に、当時売上が1千万ドルだったWhatsAppを220億ドルで買収したのもこの一例だ。Facebookが支払った金額は公開されているが、失われたイノベーションと、競争の阻害によるコストは計り知れない。損をするのは消費者と未来のイノベーターと社会なのだ。

この新しいデジタル世界のための新しいルールを私たちは必要としている。物質的な経済の古いルールを現在の新しい経済に適用しても意味がない。旧来の財産についてのルールは機能したが、知的財産としてこの新しい世界に移植されてしまうと、その機能が失われてしまう。この新しい世界では、知的財産は知的独占なのだ。経済と社会の両方に対して不公正で、不当で、危険な独占だ。この新しい情報経済に適した新しいルールが必要である。公平性と自由を保ちながらイノベーターとクリエイターに報酬を与える方法を提供し、デジタルの未来の利害に誰もが関与するルールが。

簡単に言うと、私たちにはオープンな世界が必要だ。すべてのデジタル情報が公開され、誰もが自由に一次利用、二次利用、共有できる世界であり、イノベーターとクリエイターが認知され、報酬を得る世界。

それを実現する方法を紹介する。