自由ソフトウェアをビジネスと経済の観点から考える
自由ソフトウェアのライセンス方針を基盤としたビジネスモデルを採用する企業が増えています。OW2 の CEO である Cedric Thomas が、こうした動きによってヨーロッパのIT産業がどのように変化しているのかを説明します。
ソフトウェア自体は無料で利用できるかもしれません。しかし、コストがゼロだからといって、価値までゼロというわけではありません。最近の調査によれば、一般的なアプリケーションの80〜90%1は再利用されたコンポーネントで構成され、その大部分がオープンソースです。コードの再利用、作業量の削減、保守コストの規模の経済によって自由ソフトウェア開発者が生み出している経済的価値は通常の統計には計上されていませんが、ヨーロッパ経済全体で3,000億ユーロ以上に達すると推定されています。2さらに、ソフトウェアベンダー、コンサルタント、システムインテグレーターなど、自由ソフトウェアを活用して事業を行う企業によって形成されるヨーロッパの市場は、約200億ユーロ規模と推定されており3、その他のIT市場の約2倍のペースで成長しています。
「自由ソフトウェアで、企業はどうやって収益を上げるのか?」これは、自由ソフトウェアに馴染みのない人から最もよく聞かれる質問でしょう。従来の経済や商取引の考え方からすれば、もっともな疑問です。しかし、多くの分野では、無償で提供されている製品やサービスであっても、消費者からは必ずしも見えないところにビジネスモデルが存在しています。たとえば、ラジオ局は番組の視聴料金を取らなくても、広告を販売することで収益を得ています。同様に、自由ソフトウェアも、関連するサービスや製品を販売することで収益化できます。自由ソフトウェアを利用する企業は、ソースコードに完全にアクセスできる場合でも、システム統合、保守、ユーザーサポートなどのサービスを外部委託したり、自社で開発したくない追加製品を購入したりすることがあります。これは、ごく合理的な経営判断です。
サービスを中心として需要が拡大する自由ソフトウェア産業は、ヨーロッパで約20万人の雇用を生み出しています。自由ソフトウェアはあらゆる産業分野で成長しており、自由ソフトウェアを自社の特徴として掲げていない企業にも、その開発者は存在しています。自由ソフトウェア関連の仕事の多くには高度な技術力と顧客との密接な関わりが必要となるため、海外へ移転することが難しく、地域に残りやすいという特徴があります。自由ソフトウェア関連の職種は高度な専門性を必要とし、給与水準も高く、平均以上の購買力を持ちます。その多くが中小企業に存在することも、より健全な経済の形成に貢献しています。さらに、開発コストと市場投入までの時間を削減して経済成長に直接貢献するだけでなく、自由ソフトウェアはイノベーションを加速し、より効果的なソリューションを提供します。
自由ソフトウェアは、協働型イノベーションを実現する手段となっています。クラウドコンピューティング、ビッグデータ、ネットワーク定義型技術、人工知能、ディープラーニング、ブロックチェーン、そして大部分のモノのインターネット(IoT)といった現在のイノベーションの波は、いずれも自由ソフトウェアによって支えられています。オープンソースであり、協働型のアプローチを取ることで、単一企業に支配されないイノベーションは、技術的成果と市場普及の双方で、短期間のうちに大きな成果を上げることができます。その理由は思想的なものではなく、組織のあり方にあります。自由ソフトウェアは、独立した複数の事業者が持つ技術やノウハウを組み合わせることを容易にします。また、信頼を高め、調整に伴う負担を減らすことで、複雑な協力関係を円滑にし、法的・経済的な障壁も低減します。現代のイノベーションは、複雑で、協働的で、そしてオープンソースなのです。
自由ソフトウェアのおかげで、中小企業も最先端の技術を容易に利用できます。その結果、大企業に対しても、最新技術を用いた競争力のある価格のビジネス・ソリューションを提供して競争することができます。同等のソリューションをプロプライエタリ・ソフトウェア製品の組み合わせによって構築しようとすると、コストが最大10倍に達する場合があり、契約交渉にも大きな負担が生じます。プロプライエタリ・ソフトウェア市場が、強力な独占的ベンダーによって支配される「製品導入型」のビジネスであるのに対し、自由ソフトウェア市場は、利用者の要件、顧客との近さ、高度な技能を持つ人材によって形成される「ソリューション統合型」のビジネスです。自由ソフトウェアは、中小企業が最先端技術へアクセスすることを容易にし、硬直的で高コストな製品中心のプロセスから中小企業を守り、摩擦の少ないサービス指向の環境で成長できるようにします。
経済的な観点から見ると、ヨーロッパの自由ソフトウェアは依然として大きな課題に直面しています。自由ソフトウェアは、それを一形態として含むソフトウェア産業全体と同様に、北米のソフトウェアベンダーによって大きく支配されています。北米では、自由ソフトウェアは合理的な産業戦略として認識されています。世界的なIT企業は、自由ソフトウェアと製品開発・マーケティングへの巨額の投資を組み合わせ、市場シェアを獲得しています。ヨーロッパの状況は異なります。ヨーロッパのIT大手は、製品ベンダーというよりソリューション事業者です。コンサルティングやシステム統合には強みを持つ一方、マーケティングでは弱い傾向があります。そのため、ヨーロッパでは自由ソフトウェアが主として、協働のプロセス、効率的なソフトウェア開発手法、知的財産を共有する方法、コスト削減の手段として認識されています。顧客や政策立案者は、自由ソフトウェアを個人主義的に自由を追求する人々やプログラマーによって推進されるものと捉え、その戦略的価値にいまだ懐疑的です。その背後に活力ある自由ソフトウェアのビジネス・エコシステムが存在すること、そしてそれを支援することが自らの利益にもつながることを十分に理解していません。

Footnotes
Section titled “Footnotes”-
Sonatype, DevSecOps Community Survey, 2018. ↩
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Carlo Daffara, Estimating the Economic Contribution of Open Source Software to the European Economy, First OpenForum Academy Conference Proceedings, 2012. ↩
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PAC-CXP, Impact du logiciel libre/Open Source en France en 2017–2020, unpublished survey, December 2017. ↩