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7 音楽を届ける

2006年にスウェーデンで設立された音楽ストリーミングサービスであるSpotifyは、インターネットを通じて音楽をダウンロードすることなく次々聴くことを可能にした。2017年にはユーザーは1億5000万人を超えた。Spotifyの説明をするとき、それは「ストリーミング」サービスであると言うが、ストリーミングはつけたりのもので、ギミックであるとさえ言える。ストリーミングはどのような仕組みになっているのだろうか。厳密にはそれは、ダウンロードとは違い、歌を構成する情報が連続的な「ストリーム(流れ)」としてユーザーのもとに届けられることを意味する。この区別は、ユーザーはその瞬間に再生されている部分だけを持っていて、歌の全体を持つことがないという点が重要だ。これはいろいろな意味でラジオと似ている。ラジオは放送の一瞬一瞬を受信するごとに再生する。巻き戻して前の部分を聞いたり放送全体を受信して好きなときに再生することはできない。もちろん、なぜラジオがこのような仕組みになっているかは明らかだ。ラジオの電波はすべての人に向けて発信されており、もともとはラジオには録音して再生する方法が組み込まれていなかった。

Spotifyは、そのような制限がないインターネットを通じてストリーミングしている。放送をしているわけではなく、各個人に向けて音楽が配信される。それではなぜ、ユーザーが音楽をダウンロード、あるいは少なくとも曲を一時停止したりスキップしたりできるようにしないのだろうか。これらを実装することは簡単なはずだ。これには2つの答えがある。ストリーミングでは、ある曲を聴きたいときに曲全体がダウンロードされるまで待つ必要がないという技術的な利点がある。曲の最初の部分が送られてきた瞬間に曲を聞き始めることができるのだ。しかしこの利点は大したことは無い。次に再生される予定の曲をバックグラウンドでダウンロードし、今聴いている曲が終わる頃に再生できる状態にするというのも簡単にできる。また、曲を一時停止したりスキップしたり後で再生するためにコピーを保存を制限するような技術的な課題があるわけではない。これらの制限は著作権の法律によるものなのだ。

デジタル形式の音楽がCDの形で手に入るようになり、インターネットがある程度の通信量に耐えられるようになると、音楽をインターネット上に上げて人々が聴きたいものを聴ける状態にすることは自然なことだった。ピアツーピアの配信によりお互いからダウンロードすることが可能で、これにより無料で音楽を聴くことができる。人々はこれをすぐに始めた。その際利用された最も有名な無料のプラットフォームはNapsterだろう。しかし2001年にアメリカの裁判所で、自らはコンテンツをホストしていないものの、料金の支払いや許可なく音楽をダウンロードして聴いていた利用者による多大な著作権の侵害を可能にしているという理由からNapsterは違法であるという判決が出された。

SpotifyやLast.fmなどの次世代の企業はこれを教訓とした。好きなものをダウンロードできるシステムを作る方が簡単であったにもかかわらずこれらの企業はそれを制限し、ラジオのようなオンラインサービスを開発した。なぜなのか。それは放送局と、レコード会社のような著作権保有者の間の調和をもたらした、何十年にも及ぶ交渉と法整備により、ラジオは著作権に関して特別な法的地位を有しているからだ。

ラジオ局は「著作権管理団体」による、放送する一つ一つの曲に関するライセンスを入手する必要がない包括的なライセンスを有している。著作権管理団体は集まったお金を著作権保有者間で、おおよそ放送時間に沿って分割し分け与える。1

つまりストリーミングが開始した当時、ラジオに十分近いサービスを消費者に提供することができれば自分たちも個別のライセンス契約を避け、著作権管理団体から包括的なライセンスを得ることができるだろうと企業は考えたのだ。そこでSpotifyやLast.fmは24時間の間に行えるスキップの回数を制限するなどの機能の制限をあえて設けた。そうしなければストリーミングはほぼ不可能だったためだ。

そして一旦ユーザーベースを築き始め、投資家からお金が集まり始めたころに、個別のレーベルやアーティストとライセンスの交渉を行った。そうすることで、自分で曲を選んだり、音楽を好きなときに聴けるようにダウンロードしたりするオプションのための課金が可能となった。(しかしSpotifyは、著作権保有者がロイヤリティが低すぎるという理由からTaylor Swiftを含め、複数の著名なアーティストの権利を持っていない。)2

プレミアム会員用のサービスでさえ制限はある。例えば、Spotifyは小売店というよりはレンタルサービスに近い。もしユーザーが有料サービスから退会した場合、ダウンロードしたすべての曲へのアクセスを失う。これはユーザーが有料サービスを継続する重要なインセンティブとなっている。この制限はSpotifyの、レーベルとの契約と自身の利益追求の両方から生じている。ほしい曲をすべてダウンロードしてすぐさまサブスクリプションを解約するということはできない。あるユーザーが言うように、Spotifyのプレミアム会員サービスは依存性がある。一度始めるとやめることが難しい。そのユーザーは「辞めてから2ヶ月でプレミアム会員に戻った。9.99ドルでコカイン依存になれるのはお手頃だ。」と語っていた。

一曲あたりの料金や使用の制限の無い、食べ放題のようなこのシステムは、オープンな世界がどのように機能するかを示唆する一つのプロトタイプである。資金のために何かしらの方法でお金は集める必要がある。しかしそれは、Spotifyに対して月10ドル支払う、というような仕組みではなく、税やインターネットや携帯電話使用料金に追加で課せられる特別費用という形をとるかもしれない。そしてこのお金は、報酬権費用を通じて使用量に応じて分配される。

例えばオランダでオープンネスへの転換が行われたとしよう。そうなると、オランダ国内では世界中で作られたすべての曲が自由に利用可能となるが、他の国の人々が(少なくともそれらの国々がオープンになるまでは)アクセス出来ないように、デジタルな壁の存在が必要である。オランダ在住の人であればどの曲でも自由に聴き、共有し、リミックスすることができる。これを賄うために政府は、例えば全員の携帯電話の通信料金プランに少額の料金を上乗せするかもしれない。Spotifyの利用料とは違い、この金額はかなり低いものとなる。

どのくらい低いか。その答えを知るためにまずは、現在クリエイターが得ている額と同等あるいはそれ以上の額の報酬を与えるためにどれくらいの額が必要かを考えてみる。現在、オランダにおける音楽の収益は年間約1億5000万ユーロだ。このうちクリエイターの手元に届くのは60%以下であると考えられるが、ここでは多く見積もってすべてがクリエイターの手に渡るとする。オランダの成人の人口は1500万人であるから、現在の音楽の使用量を支払うための成人一人あたりの費用は年間10ユーロとなる。一月あたりにすると85セントとなり、Spotifyの利用料金(毎月10ユーロ)の10分の1以下である。もし国民全体ではなくインターネット利用者のみからの徴収だとすると、その金額は1回線あたり毎月1.75ユーロとなる。

音楽産業の資金調達の方法がどのようなものであれ、集めた資金を分配するメカニズムは複数存在することができ、さらにそれらを組み合わせることもできる。芸術的な判断における個々人の嗜好の重要性を考えると、それらには異なる重み付けが行われる。ここに分配の一例を提案する。

  • 報酬権により、音楽の資金の、例えば80%が作曲とレコーディングに割り当てられ、各権利者に報酬権基金の一部を受け取る権利が与えられる。これは作品の使用量にほぼ比例して分配される。このための法的な行政的な枠組みは業界ではすでに広く利用されている。例えば、作曲者はアーティストに対して自動で発生する固定費用ライセンスを提供し、著作権管理団体は店やバー、ナイトクラブなどの商業利用者が利用可能な包括的なライセンスを管理している。オープンな世界では、資金調達の大部分がこの方法で行われる。一つ変更可能な点は、(著作権管理団体ですでに取り入れられているものであるが、)分配を累進性にすることだ。著名なスターへの支払いの割合を減らし、より少ない金額を得ているアーティストの報酬を増やすことで、新進気鋭な、実験的なアーティストを支えられるようにするのだ。
  • 従来の、専門家が選んだ特定のアーティストや組織に対する助成金により、例えば10%が事前に支払われ、そのお金が新しい作品やレコーディングに充てられる。これはすでに世界中で見られるパブリックアート事業に似ている。情報の生産はカバーするがライブパフォーマンスはカバーしない。
  • 利用者選択(「Kickstarter」または「X-Factor」モデル)により、(ブルースのジャンルのアーティストを支援するというように)特定のアーティストやプロジェクト、さらには包括的なポリシーの支援など、消費者の積極的な選択による資金配分(例えば10%)の決定が可能となる。アーティストはアルバムや曲などのプロジェクトとその予算を提案する。市民には「投票ドル」が配分され、それらのプロジェクトの支援が可能となる(使われなかった投票ドルは比例して分配される)。これは一般の人々が事前の資金調達を多少なりともコントロールすることを可能とする。これはKickstarterといったクラウドファンディングや、X-Factorなどの視聴者投票番組と類似性がある。

以上のことから、オランダでアーティストに対して今以上の金額を支払うことができるオープンな音楽体制を持つことは可能なのだ。しかもその費用は毎月のバス利用費、さらにはペットボトルの水の価格よりも低い。お金の徴収をペットボトルの水に上乗せするのも良いかもしれない!

アクセスと利用の増加による利益はどれほど大きいのだろうか。正確に把握することは不可能だ。追加の利用はどの程度あるのか、子供がベートーヴェンの第九を聴く機会が与えられることにどれほどの価値があるのか、おばあちゃんが若かりし頃のヒット曲で踊れることにどれほどの価値があるのか。金銭的な価値を計算する方法は複数あるが、2012年から2015年にかけてAmsterdam UniversityのBernt Hugenholtz教授が行った調査による試算が最も良く、最新のものだろう。彼らの結果によると、代替となる報酬システムを使ったオープンな音楽モデルへの移行は、オランダ社会に6億ユーロもの追加の価値を生むだろうということが示唆された。これは、オランダのレコーディング産業の年収全体の4倍以上の金額である。3

これさえも利益を過小評価している。なぜなら現在の非効率なシステムのコストを削減、除去することによる利益を含んでいないからだ。例えば、従来のライセンス方法による法的費用、権利者が著作権侵害訴訟を行うための費用、ファイル共有を防止する施策などである。独占的な私企業にとって排除することがカギであり、無駄な機会は結果として無駄なお金となる。排除された利用者は多くの場合お金を払うのを避けようとして、そのサービスに登録している友人にストリームしてもらったり、ダウンロードして共有するように頼んだりする。このような行為は潜在的な顧客の数を減少させるため、Spotifyはサービスを制限するためにあらゆる対策を行っている。具体的な方法として、デジタル著作権管理(DRM)を使い、音楽を暗号化して送信し、その利用者のみが再生できるようにしている。その音楽を再生できるアプリは制限され、また利用者はSpotifyのアプリの入った端末にのみ音楽をコピーすることができる。そうすると今度は、SpotifyはDRMをハックしたり解除しようとする人の対策と、実際にハックや解除を行った者に対する訴訟に時間とお金をかける必要がでてくる。4 結局Spotifyは、サービスをより不便にするためのシステムの導入・維持のために多額のお金を使っている。

このような手の込んだ妨害は音楽に限ったことではない。それらは多様な形態を取る。BBCの番組(もちろん、英国の人々の支払いによって賄われている)のどれが無料でアクセス可能か、それがいつ、どこで可能か、といった制約から、デジタル透かし、新聞の有料課金の仕組み、Oxford English Dictionaryの複雑なログイン手続きなどがある。デジタル世界はコストのかからないコピーを非常に得意とする。それを防止するための自己破壊的な技術は、数億ドルもの価値をもつ産業であり、より複雑で使う人をイライラさせるような方法を生涯に渡って作り出している人々もいる。人類が時間を無駄にしていることがわかる最たる例である。オープンなシステムでは、これらのコストは削減もしくは完全に消滅する。(これらの費用は技術者、官僚、弁護士の収入になっていると主張する人がいるが、そもそもそれらの仕事が必要ない場合は非生産的であり、これらの人たちがより生産的に働けるようにすることは経済全体に利益を与えることになる)。

オランダの音楽産業に関するAmsterdam Universityの数値はアクセスのみに焦点が当てられており、創造性や文化的自由に関連する潜在的な利益を考慮していないことからも利益全体はさらに大きいと考えられる。作品が開放されることで、潜在的なアーティストを刺激するものが増え、制作のもととなる材料が増え、社会は豊かになる。

音楽における再利用は頻繁に見られ、重要でもある。演奏者は他の人によって作曲された作品を演奏し、作曲者は過去のアーティストの作品から借り、磨きをかける。ヒップホップなどのジャンルでのサンプリングはこれを直接物語っている。再利用はオープンフレームワークと自然に馴染む。いままで見てきたように、誰もが他の人の作品をもとに新たな作品を制作することが可能となるが、再利用した人は、もとにした作品の作者に対して報酬権による支払い(またはその他の収入)の責任を負う。

今日の著作権制度との大きな違いは、レーベルや製作者は独占権ではなく報酬権を利用することにより再利用がより容易かつ流動的になることだ。著作権が規定するクレジット表記と認知(または著作者の明記)についての人格的権利はこのモデルでも維持される。それによってアーテイストは自身の作品が利用されたり、再利用された際には自身の作品についてクレジット表記をしてもらう権利を持ち続けることになる。

この新しい報酬権のアプローチは新規レコーディングの資金調達のためのリソースが増えるという直接的な利益をもたらす可能性もある。つまりより多くの音楽が作られるということだ。これは追加の6億ユーロがどのように分配されたかで変わってくる。一つの選択肢として、現在の1億5000ユーロと等しいインフレ調整済みの金額を音楽レーベルとクリエイターへの支払いとして確保しておき、追加の6億ユーロをユーザーに渡す、というものがある。これはオランダ市民が毎月1ユーロ未満を支払う一方で毎月35ユーロを得ることを意味する。

もう一つの選択肢として、追加の価値の一部をレコード会社とアーティストに分配する、というものがある。例えば、人々が毎月3ユーロ(人によっては任意でそれ以上を)支払う意志があるならば、消費者は30ユーロ以上の追加の利益を受け取りつつ、アーティストとレーベルに渡るお金を3倍以上に増やすことができる。オープンな音楽モデルは市民全体と、アーティストとレーベルの双方にとって莫大な利益をもたらす可能性がある。誰もがいつでもあらゆる方法で聞くことのできる音楽をもっと創れるように、より多くのアーティストにお金が支払われる。

7.1 オープンなモデルは必要?Spotifyでは不十分?

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しかし本当に政府がお金を徴収する必要があるのだろうか。Spotifyのような私企業に任せておいても良いのではないか。

Spotifyは一見するとオープンで、消費者は明らかにその定額料金の無制限アクセスの仕組みを好んでいる。しかし欠点もある。商業による独占を招いており、かつ普遍的なアクセスを欠いている。そして何よりSpotifyはすべての人がアクセスできる価格帯に料金を設定することに興味を示すことはない。このためSpotifyはオープンなシステムが提供できるサービスよりも、アーティストと利用者の双方にとって制限付きのものとなっているのだ。

Spotifyが提供するサービスに対してどのくらいの金額を支払う意志があるかは利用者によって異なるため、Spotifyはすべての人にアクセス可能にすることは無い。一部の人はサービスを高く評価して、あるいはお金をたくさん持っているという理由からサービスに対して多くの額を支払うだろう。一部の人は普通の金額を支払い、そして一部の人は音楽が本人にとってさほど重要ではないために、あるいはお金が無いため少しの額しか支払わないだろう。しかしSpotifyはそれぞれの層を識別することに苦戦しており、すべての人に対して利用料金を一律の金額に設定している。そしてSpotifyのような営利団体は利用者のアクセスを最大化する料金設定を行うことはない。なぜなら、料金を下げると利用者が増える一方で、ある金額からは既存の定額利用者からの収入の低下を埋め合わせるほどの収入が得られなくなるからだ。5このため私企業による独占では、多くの潜在的な利用者が締め出されることが約束されている。

そもそも、プラットフォームの所有者は利用者やアーティストと求めていることが異なる。競争のある環境の中でのオープンなプラットフォームは利用者とアーティストにとっては良いが、投資家にとっては独占的なプラットフォームの方が魅力的である。さらに、Spotifyのようなプラットフォームは、その権力を使って、自身の支配力を保持・強化するためにエコシステムの発展の方向を誘導するインセンティブがある。具体的には、自身の独占を脅かすイノベーションや発展を制限したり打ち切ったりしようとするだろう。そしてその独占を野放しにしてしまうと、音楽鑑賞だけでなく、アーティストやレコード・レーベル、そして音楽へのアクセスと発掘に関係する技術の発展についての権力を独占している企業に与えることになる。

オープンなモデルは、アーティストや利用者に付け入るような、所有者のいるプラットフォームではなく、民主的に監視された中立的なプラットフォームであり、利用者と供給者を仲介し、ルールを設定し、利用者とクリエイターを含む社会全体にとって最善の結果となるように利用料金を設定したりする。

政府が独自のSpotifyを設立する必要はない。国がストリーミングサービスを運営したりや携帯電話アプリを開発したりプレイリストを保存する必要はない。どの企業もプレイリストやアプリを通じた音楽提供を行うサービスを創ることを可能とする、標準化された自動的な包括的なライセンスの管理体制を築くだけで良い。今日のSpotifyとは違い、これらのプロバイダは技術的なディストリビューターとして仲介しているだけで、法的な意味での(特別な許諾をもらった)ディストリビューターとして仲介しているわけではない。彼らはライセンスに関しては交渉しないのである。言い換えると、オープンな音楽モデルでは、普遍的な音楽に関するライセンシングプロトコルを国が提供するのである。これは音楽への普遍的なアクセスとアーティストにとってよりよい契約を提供するだけでなく、利用者に音楽を提供するための技術的イノベーションを可能とする。オープンなインターネットプロトコルが競争の激しい(私たちをインターネットに接続してくれる会社たちである)インターネットサービスプロバイダーの市場を作ったのと同様に、このオープンな法的プロトコルは競争の激しい音楽サービスプロバイダーの市場を作り出すだろう。

これは国営化事業ではない。国有企業による独占は、私企業による独占の欠点に官僚制度を組み合わせたものであり悲惨なことになりかねない。このような場合では、競争を促進することが国の役割となる。そもそも著作権の独占を作り出したのは国であった。もしも国が今度は、包括的ライセンスを義務として導入すれば、これらの望ましくない独占は減ることになる。

新しい曲を好きな経路を通じて提供し、再生回数に応じて報酬権基金の金額の一部を受け取ることを誰もが自由にできる。これと呼応するかたちで、市民は好きなときに、好きな場所で、誰からでも音楽にアクセスすることができる。最後に、そして最も重要かもしれないのが、ライセンスプラットフォームをもとに新たなものを創ることの制約がなくなる。つまり、誰でも音楽に関連する新しいビジネス、または新しいタイプのビジネスを創ることができる。これは音楽を作って販売する業務に関連するIT産業のイノベーションを促進するだけでなく、音楽を流すレストランや学習アルゴリズムのために音楽データベースが必要なAIスタートアップ企業など幅広い産業にも影響を与える。

これはその他のメディアにも当てはまる。Netflixも良い例だ。Spotifyと同様にNetflixも定額の使い放題サービスを提供している。Spotifyと同様にNetflixも市場を支配する潜在能力があるために巨大な市場規模を持つ。Spotifyと同様にNetflixでもオープンモデルが(この場合映画とテレビにおいて)機能することを実証できる。ここで提唱している報酬権とはわずかに形態が異なるものの、音楽における著作権管理団体と同様にテレビでも政府主導のオープンモデルが機能する実用的な例が存在する。イギリス国民のほぼ全員が受信料のかたちでBBC利用料を支払っており、BBCはイギリス国民に無料でコンテンツを提供している。またドイツのRundfunkbeitragのようにその他類似のモデルは多くの国に存在する。しかし、音楽の場合と同様に映画の産業構造は非効率で、とっ散らかっており、単一の企業による支配が生じる危険性がある。しかしビジネスとして映画とテレビは音楽よりも桁違いに大きく、オープンモデルを採用することで得られる利益はそれゆえ大きい。オープンモデルは毎年何十億ポンド(あるいはユーロまたはドル)の価値の増加をもたらすだろう。

オープンな世界での音楽の初期の資金は現在と同じ水準で始まっても良い。世界全体の音楽業界の収益は約150億ドルだが、推計によるとその13%のみがアーティストの手に渡り、四分の一はマーケティングとプロモーションに費やされるとされる。オープンな世界では、アーティストは今よりも高い割合でお金を受け取る一方で、自身で音楽のマーケティングのお金を支払う。例えば現在、収益の40%がアーティストの手に渡るとしよう。独占権による収入を代替するために必要な資金は世界全体で年間60億ドルで、その大部分はアメリカとEU(それぞれ世界の音楽市場の三分の一を占める)、そして日本(18%)から来る。

この収益は政府が複数の方法で調達することができる。国民全体に対する課税を通じて行われた場合、アメリカ国内において一人あたり月1ドル未満の負担となる。あるいは音楽を再生したり保存したりする電子機器に料金を上乗せすることもできる。2015年時点で2億6400万のインターネット及びモバイルデータの契約が存在しており、それぞれの契約に上乗せされる料金は月0.62ドルとなる。

より斬新なアプローチはオンライン広告に対し税金を課す方法がある。多くのオンラインビジネス、特にコンテンツを利用するものは広告を主な収入源としている。例えば広告からその収入のほとんどを得ているGoogleは、他人の無料コンテンツの利用に頼っている。YouTubeは他の人によって提供された動画と音楽で構成されており、その検索エンジンはGoogleを通したウェブ全体へのアクセスがなければほぼ価値のないものであろう。同様にFacebookも収入のほとんどを広告から得ているが、利用者はお互いのコンテンツに興味を持つから利用する。現在、これらのお金のごく一部しかクリエイターに支払われていない。Googleの検索エンジンの広告収入のほとんどはサイトへは渡らず、利益配分の契約を結んでいるYouTubeも権利者に対し収入のごく一部しか支払っていない。オープンな情報財の資金調達のためにオンライン広告に対して課税することは平等性の面からも、アーティストと権利者に報酬を与えるための透明性のある方法であるという面からも魅力的である。

  1. 状況は国によって異なる。アメリカでは、放送局は作曲者にお金を支払うが演奏者にお金を支払う必要はない。この2つの著作権は、後者が1972年に作られて以降区別されていて、その免除は当時の放送局のロビーの力によるものである。そのロビーの主張は、放送局はレコーディングを放送し宣伝することで演奏者にとって価値のあるサービスを提供している、というものだった。レコード会社は自身のアーティストのレコードを放送してもらうために著名な放送局に対し多額のお金を、時には違法に支払っていることから、それが事実であると信じている。 ↩

  2. ザ・ビートルズはストリーミング音楽プラットフォームを拒んだ最も有名な例だが、2016年から彼らの曲のほとんどが聴けるようになっている。 ↩

  3. Going Means Trouble and Staying Makes it Double: The Value of Licensing Recorded Music Online by Christian Handke, Bodo Balazs and Joan-Josep Vallbé in Journal of Cultural Economics 22 May 2015より。プロジェクトのサイト: https://www.ivir.nl/projects/copyright-in-an-age-ofaccess-alternatives-to-copyright-enforcement/ (last accessed Mar 2018). ↩

  4. DRMの欠点は2004年のCory DoctorowによるMicrosoft Researchでの講演で正確に、コミカルに取り上げられた。彼が指摘するように、DRMと回避阻止技術には、著作権法を根拠としない、情報の使用に関する新たな制限を会社が加えることを可能にする危うい側面がある。http://craphound.com/msftdrm.txt ↩

  5. これは供給側、つまりストリーミングする曲の使用量を支払うSpotifyにも同様のことが言える。もし独占だった場合、レーベルやアーティストと交渉する際にさらに強い立場となり、価格を下げるよう交渉するだろう。これは作られる曲が減少することから産業全体の損失を意味する。レーベルとアーティストはすでにSpotifyのようなプラットフォームの力を懸念しており、独占はその力を倍増させる。プロデューサーは、アーティストがより多くの販売先、より多くの露出、長期的に見てより強い交渉力によるより良い契約を保証するオープンな音楽モデルを支持するべきだろう。 ↩